本を読む:黄昏の百合の骨、その姿の消し方
黄昏、という漢字の読みを知らずに恩田陸の「黄昏の百合の骨」を読んだのは小学校高学年のときだったような気がします。
当時の僕は学級委員に進んで立候補するような活発な性格ながらピアノの練習に日々時間を割いており、ピアノを弾かない時間には本を読んで大抵はひとりで過ごしていました。
青い鳥文庫の本を図書館から借りることもあればアシモフの巨編SFを衝動買いすることもあるような拘りのない読書が自分のスタイルで毎日最低でも一冊は読んでいると言って学校の先生を驚かせた記憶がありますが、その膨大な読了書籍の中でこの「黄昏」には不気味な内容と反して本の題そのものが強く記憶に残ったことを覚えています。
なぜ黄昏という読みを気にせずに最後まで読んだのかは今となっては疑問ですが、黄色くねむる、という字の組み合わせに、当時好きだった「放課後」の太陽の光を結び付けてそのイメージを自分の中で大切にしていました。
友人の数は決して少なくなかったものの、高学年になるにつれて中学受験の勉強で塾に行く者、本格的にスポーツにのめり込む者とそれぞれの道が分かれるようになり、自分のピアノの練習もあって放課後に時間があるときはひとりで読書をする機会が増えました。その頃になりそれまで何も考えずに一緒にいた仲間が違う方向を向いて歩き始める寂しさを初めて感じるようになり、学校という閉じられた空間の中で「放課後」の静寂が作る空気感、電気の消えた廊下や教室に差し込む夕暮れの光、そして読書をすること即ち他にすることがないとき、という紐づけが放課後の読書という状況そのものとそこで感じた光の色、空気のにおい、遠くから聞こえる音といった要素を包み込んでひとつのイメージとして自分の中に定着し、それがなぜかあの読み方の分からない「黄昏」という言葉に呼応したのです。
そして後になって黄昏の読みと意味を知ったとき、それはそのまま僕が黄昏れ時という一日の時間的区分に対して持つイメージとなり、またその時間に期待する五感的空気感となりました。
年を経てその頃に読んだ本の内容もほとんど忘れた頃、黄昏の空気のにおいを思い出したのは2年前、ヨーロッパを一人で放浪しているときにミュンヘンで発車間際の電車から夕陽を眺める車掌の男性を見かけたときでした。
知り合いのいない土地で観光でもなく仕事でもなくただ歩き続ける、という楽しくも孤独な一人旅に少し疲れていた僕にとって、その何でもない光景の持つ日没間際の光は「黄昏」の印象を突然呼び起こすのに十分な濃さで、どうしようもない胸の騒めきと共にあらわれたその印象をもって瞬間的に旅に意味付けする絵具となるのに完璧な明るさでした。
昨晩は午前2時まで学校の図書館で勉強した後に自宅で夜明け前まで続きを片づけて、短い睡眠を経てから今朝の中間試験に臨みました。決して眠気は感じないものの普段との集中の違いからか全身の力が抜けるような心地よい疲労感があり、午後は天文学部の講演会には出席せずに自宅で淹れたコーヒーを飲みながら久しぶりに日本語の本、堀江敏幸の「その姿の消し方」を読みました。古く決して快適とは言えない安アパートの自室にも今日は冷たい風と柔らかい夕陽がシェード越しに滑り込んできて、疲労と解放感、ゆっくりと本を読める幸せ、久々に一人でいることでの微妙な寂しさ、そして堀江敏幸の持つ語り口の柔らかさに浸かりながら、どこか懐かしいような胸のざわめきと共にシェードの影がほぼ水平になるまで心ゆくまで黄昏の中読書を楽しむことができました。
勉強と音楽と自転車に集中しているうちにいつの間にか秋も中盤を迎え、顔を上げると葉の落ちた枝の隙間から濃い夕焼けが見えるようになりました。綺麗な装丁の単行本を閉じて棚に戻す頃には部屋着の上にもう一枚羽織りたくなるような気温。
黄色い葉に埋まったた地面の下で、ひとつの季節がねむりに就こうとしています。
ドラッグの匂い、線香の香り
夜、日付が変わる頃。
疲れを見せずに営業を続けるホットドッグ店。大音量でヒップホップを流しながら路上駐車する車。触れ合う男女。悪態を吐きながら彷徨う浮浪者。
そして街中に溢れる大麻の匂い。
これは、世界有数の大学を擁する街が見せる別の側面です。
歴史の中でヒッピー文化と教育機関の共存が生み出したのは、この昼と夜で主役が入れ替わるステージとしての街の姿、そしてその双方を毎晩行き来する若い学生たちの生き方でした。
僕はこの街に、学生として住んでいます。
一度慣れて何が安全で何がそうでないのかを判断できるようになると、この混沌とした雰囲気は少しだけ心地よくもあります。暗い道路に強烈な光を放つ不統一な看板や道端で大麻を吸いながら大声で戯れる若者や路駐した改造車のスピーカーが作る低く重い空気の振動は、どれも少しだけ、日本のゲームセンターの空気感に似ているような気がします。
以前、まだ日本にいた頃、少しだけ勉強や他のことに疲れて毎日のようにゲームセンターに通っていた時期がありました。お金が沢山あるわけでもないので大半の時間は友人や見知らぬ人が遊んでいるのを見ているだけでしたが、暗く五月蠅く混沌としていて一見戸惑うような場所でありながら拒むことなく好きなだけ不干渉で混沌に身を置かせてくれるあの場所が僕はたまらなく好きでした。そしてそうした場所に身を沈めている人々の息遣いを感じるのが好きでした。
旅といい写真といい、僕はきっと人間の生を強烈に感じられる場所や光景を探すのが好きなのだろうと思います。自転車で自然の中誰もいない山頂や高地に行くことやそこで星空を見上げることへの熱狂的な欲求はそうした感覚への対位的なものでしょうか。
しかし同時に、その対極にあるような日本の街が少しだけ恋しくなることがあるのも事実です。既に日本を離れてから短いとはいえない時間が経ち昔の自分が見たものを幻想として抱いていることは否めませんが、それでもこの夏に日本を訪れたときは、平和で、代わり映えのなく、当たり障りのないような光と影に囲まれて沢山の要素が干渉しあって成り立つ日本の街が、まだそこにあることを自分の目で再び確認することができました。
そしてそうした日本の空気の記憶はなぜか、幼い頃に両親の実家でしか直接触れる機会のなかったはずの線香の香りと共にあります。
ドラッグの匂いと線香の香り。交わることのない二つのにおいと共に将来の自分が思い起こすのは、その双方を連続して体験したこの夏の記憶だろうか。はたまた未来に体験する別の出来事だろうか。
そんなことを考えながらホットドッグを頬張り、今日は帰路につきました。
写真は7月末、鎌倉にて。
それから起こったすべてのこと
...似たような名前の小説があった気がします。
いつの間にかブログを開始して1年以上、その間わずか20程度の投稿、しかも最後に書いてから5か月という無茶苦茶な時間が過ぎてしまいました。
色々なことがありました。長年の夢の一部が実現に近付き、住む街が変わりました。新しい勉強と研究を始めました。最大の写真の師匠にして最愛の親族を亡くしました。日本に少しだけ帰り、知らない街、知っている街の写真を撮りました。米国に帰国し、音楽仲間が増えました。自転車仲間も増えました。大切にしていたグラベルバイクが自宅で盗難に遭い、落ち込みました。
浮き沈みの多かったこの数か月間で、ロードバイクの乗り方、写真の撮り方、宇宙の見方も変わりました。夏のできごとが既に遠い昔の少年の頃の思い出のように感じられます。自分を取り巻く大切なものたちの場所が一度に変わってしまって、思春期の頃のように少しだけものごとに敏感になっているのかもしれません。
少しずつ、そういうものを解きほぐしながら、また写真を貼っていきます。
カリフォルニアから、胸が躍るような何かを。
今日は、先日行った天文台からの景色を数枚。
バーボンを少し濃いめに水割りで。
カーボンホイールを考える: Easton EC90 SL (3/3) インプレ編
お待たせしました!
sterling-ym.hatenablog.com詳細リサーチ編からの続きです。
日本でEASTONを使っている方は少なめでインプレ記事があまり多くないのでなるだけ詳細に、どの他のインプレ記事よりも深く掘り下げるつもりで書いてみます。
2018年3月某日、悩みに悩んだ末に EASTON EC90 SL をホイールとして選択し、wiggleにて購入しました。同価格帯だとハイエンドのアルミホイールやwiggleオリジナルブランドのPrimeホイール等もあったものの、決め手は軽量とエアロをどちらも手に入れられるオールラウンダーとしての特性を明確にしていたこと。
過激なリムハイトでないので普段使いできること、山を登れること、でも空力を犠牲にしていないこと、という点で高さ38mm×厚さ28mmの超ワイドセミディープリムは最適に思えました。
購入後1000kmほど乗ったので実際にどうたったのかということを分かる範囲でインプレします。
購入の手順
Wiggleのセール期間に他の必要部品やタイヤと同時に注文しました。
セール期間は多くのものが劇的に安くなるので狙い目ですが、実はこのまとめ買いに落とし穴が待っていました。
アメリカでは個人が輸入したものでも800ドル以上の品物には関税がかかります。
今回注文したのは単価が600-700ドルのホイール2つとその他の細々したものが100ドル分でしたが、それらをまとめて購入してしまったため「買い物総額が800ドル以上」ということで関税をかけられてしまいました。その額11%,150ドル(+手数料)。
しかも運送会社の担当者がよく把握していなかったため車のホイールだと思われてしまったらしく(ホイールの入っている箱の幅が車のホイール幅に全然足りないのは一目瞭然だったと思うのですが)、税関を通過するために自動車関連製品輸入手続きをしろとの書類が送られてきたりと何かと面倒でした。
カリフォルニアに到着したことは分かっているのにそこからメールのやりとりが遅々として進まない数日間を経てやっとホイールが到着したのは注文から10日後。普段は1週間以内に届く超速wiggleに慣れていたのでだいぶ待ったような気がしましたが、それでも早いものです。ちなみに間違いと遅延に対する謝罪は一切ないのがアメリカ式。
到着・外観
ホイールは一つずつ箱に入って到着。見た目に反して異常に軽い箱に期待が膨らみます。
箱にはテンション調整済みのホイール本体、クイックスキューアー、カーボン用ブレーキ(後述します)、バルブホールスペーサー、10速用スペーサー、取扱説明書が付属します。ホイールバッグはありませんがいわゆる観賞用兼決戦用とかでもないので気にしません。機材は使ってナンボ。
外観は至ってシンプル。カーボン地の雰囲気がそのまま楽しめるボディーにロゴが入大きくっていますが中抜きのフォントなのでスタイリッシュです。個人的にこういうデザインはカンパニョーロやシマノなどの大企業のロゴ丸出し感よりも好きです。
カーボンはコーティングがあるような無いような自然なマットフィニッシュで好感が持てますがグロス派の方も一定数いるようなのでここは好みの問題でしょう。
重量
到着後実測重量は
フロント:526g
リア:674g
でした。共にリムテープなし、スキューワーなし。
合計するとちょうど1200gになります。ナニコレ軽い。(笑)
ちなみにタイヤはコンチネンタルのゲータースキンを選択したので最高グレードと比較するとかなり重めの300g/個。チューブラーに慣れる前にパンクしたくないのであえてこれを選択しました。そして他社とは違うハブの構造を支えるための特製スキューワーは72g/個。したがってタイヤを含めた総重量は2000g弱ということになります。いつか良いタイヤを履かせてあげたいものです(ホイール購入で金欠につき延期)。
チューブラータイヤ装着
今回は軽量性最重視でチューブラータイヤを選択したので慣れない手つきでこわごわチューブラータイヤを装着しました。手順としては、
1.空気を入れて適度にタイヤ本体を膨らませて数時間放置
2.テープを貼っていないホイールにタイヤをはめて高圧で放置
3.一度外してリムにテープを貼ってからタイヤをはめる
4.タイヤを少しずつ持ち上げながらテープの反対側をはがす
という感じです。セオリー通り。個人的な感想としてはワイヤーが入っていないのでクリンチャータイヤよりも作業後に手のダメージが少なかったような気がします。
シームレスな表面のカーボンホイールに滑らせるようにしてタイヤを装着するのが楽しくてむしろクリンチャーより良いのでは!?と思うほど。
外すときのことは考えていません。(笑)
ブレーキシュー交換
アルミからカーボンに乗り換えるときに忘れてはいけないのがブレーキシュー交換。スイスストップの黄色パッドが付属しています。
交換自体はシンプルで、側面ネジを外してアルミ用パッドを抜き取ってから黄色パッドを入れ替えるだけ。ただし、わざわざアルミ用からカーボン用に変える理由のひとつにパッドに付着した細かい金属片がカーボンを傷つけないようにするためということがよく言われているので、念のため黄色パッドを入れる前にブレーキ周りを濡れタオルで掃除しておきます。黒いパッドを触ると手が真っ黒になります。掃除して良かった。
シェイクダウン
最初の試走は普段から走っている峠で普段と同じくらいの時間帯に行いました。シェイクダウンといってもあくまで主観的な感想です。
※追記:「よくわからないけど速い!」という何も伝わらない下書きを書いていましたが1000km走った後の感想を追記したのでブレーキ性能とエアロ効果に関してのみシェイクダウンの感想を残しています。
・ブレーキ性能
カーボンはブレーキが弱いよ!と散々言われていたからか、問題は特に感じません。カーボンらしいシュルルルルという音はしますがブレーキの効きが弱いと感じたことはなく、むしろ熱対策のために連続的なブレーキを避けて局所的にしっかりと握るようなブレーキングをしてもしっかりと止まってくれます。アルテグラのブレーキ、スイスストップのパッド、そしてイーストンのブレーキ面(若干加工されています)の組み合わせは極端な高速での急ブレーキでなければ(そんなものは試していませんが)完璧といえるでしょう。本格的な10km、6-10%程度の連続したダウンヒルにも何度か挑戦しましたが安心してブレーキができました。
・空力特性
エアロに関しては宣伝されている通り、いかにもエアロリムといった高速巡航下での安定性を感じます。また横風は本当に極端なものでない限りほとんど振られません。これもワイドリムの恩恵でしょうか。何よりコォォォォという音が聞こえてくると速く走っているような錯覚( )ができて楽しいです。
1000kmを共に走った感想
記事を書かずにモタモタしている間に2ヶ月が経ち、1000km近くを走ったのでその感想を。個人的にはここが一番大事だと思っています。
まず、ひとことで書くならば、満足!です。確実に得られるエアロ効果と超軽量リムの軽快感は他のアルミリムでは絶対に味わえない楽しみをもたらしてくれます。
具体的には、タイムを狙って峠を登るときの序盤の浅い登り区間(2-3%)とクライム区間(5-15%)の切り替えが非常にシームレスで、むしろ切り替えるという感覚なく速度を維持したまま登坂に突っ込んでいけます。ひとつの理由として軽量さの恩恵でスピードのロスを感じないというのはあると思いますが、このホイールの持つ軽さと安定性のバランスがとても素晴らしいことがより大きな理由としてあるように思います。
バランスというのは、登坂に最適な超軽量リムでありながらペラペラ感がないということ。剛性云々というよりは安定した重心を感じられるという意味です。リムから伝わってくる地面をダイレクトに蹴りだしているような振動がホイールの持つ安定感に支えられてそのまま加速度となっているのを感じます。登坂ダンシングの喜びを最大限まで高めてくれるホイールです。
また平地でTTごっこをしているような時にもエアロリム独特のコォォォという風を切る音と共に加速を感じることができて高い満足度を得られます。この点は非常に主観的な評価になりますが、ローハイトリムと比較して20mph以上(32kph~)からの踏込みに対する反応性の違いはさすがエアロリムといったところです。私はスプリントはダメダメなので平地の無風状態では35mph(56kph)までしか出せたことがありませんが強い向かい風でも30mphくらいまで引き上げてくれるリム自体にはもっとポテンシャルがあるように感じます。
ただし、このホイールの弱点としては、皮肉なことにおそらく軽すぎることを挙げなければいけないように感じます。私はクライム派なので問題は感じませんが、バリバリの平地派の方が使うとするとこのホイールはおそらく軽すぎて回転慣性の恩恵をまったく得られないことが問題となると思います。軽さ故に加速は驚くほど速いけれど、「いったん回り始めたら止まらない」フライホイール感は全くありません。たとえば本格的な平地タイムトライアルに使うホイールではない、と断言できます。そもそも40mmリムをTTに使う人はいませんが。
また、同じことはタイヤの空気圧と踏込みに対する反応性に関しても言えます。軽いためか、高い縦剛性によるものなのか、踏込みと振動のバランスがとれるタイヤの空気圧の調整がかなりシビアです。100psi程度の高圧だとガチガチすぎて余程スムーズな路面でなければパワーロスが大きすぎ、逆に70psi程度の空気圧だとホイールとタイヤの一体感を感じられずにモッサリしてきます(タイヤは25cを使用)。 私はコンディションとタイム狙いの有無によって85psi-95psiあたりを使い分けていますが2-3psiの違いでも真剣に走ったときのタイムに大きな差を感じます。
良くも悪くもタイヤの接地面からの感触をじかに伝えてくれるホイールなので鉄下駄のようにとりあえず空気が入っていればだいたい同じように走るという感じではありません。ただこれはいちがいに悪いことははいえず、ギリギリ脚力で踏み切れるだけの振動が伝わってくる空気圧までできるだけ上げつつガシガシ踏む、とうような乗り方をすると面白いように速度が乗ります。
ひとことでいうとレーシーなホイール、ということです。
ちなみに前述の峠区間は半年で2500人近くの履歴がある激戦区ながらホイールのおかげか先日年間6位にランクインしました。30秒以上のタイム差をつけている1位の人はプロなので無視するとして、タイム的には2位に10秒まで迫るところまできました。
真剣とはいえ趣味勢なので競技勢のタイムに食い込めるのは嬉しい。
その他・まとめ
最後に、誰もが気にする剛性のお話。前述のように縦剛性はおそろしく高く、かなりのダイレクト感があります。横剛性に関してはエコーハブの極幅広設計のおかげで特に問題はなく乗れていますが、体重50kgの軽量級である私がダンシングで心地よいリズムを感じる程度にはしなやかなので、80kg台の人が平地で1000Wのスプリントをするような場面では剛性が不足しているかもしれません。ただし剛性は本当に主観的な問題なのでこればかりは乗ってくださいとしか言えません。私にとっては何度も述べているように丁度良いダイレクト感&リズム感を作る程度の剛性なので峠のダンシングが楽しくてたまりません。
インプレは以上です。
いかがでしょうか。私に分かる範囲で詳しく書いてみたつもりですが、足りないところや質問があればコメントを頂ければ対応します。
購入後2か月以上が経過しましたが、いまだに後悔をするポイントを何一つ見つけていません。満足度の高いホイールです。最近EASTONは超ディープリムをラインナップに追加したようなので平地派の方はそちらも見てみてください。オールラウンダーなら間違いなくこのEC90 SLです。
Twitterのフォロワーさんはご存じかと思いますが最近非常に興奮する自転車レースイベントに行ってきましたので早いうちに写真を紹介します。
フォロワーさんでない方、Twitterメインで色々写真投稿していますのでぜひ覗いてみてください。( すたりん (@St__Road) on Twitter )
それではまた!
カーボンホイールを考える: Easton EC90 SL (2/3)
前回からの続き。
wiggleで時折半額程度まで値引きされることのあるEASTONホイールが買いかどうかをデータから検証します。
EASTONとは
EASTONは1922年にアメリカで創業された歴史あるアメリカの会社です。主に「筒状のもの」を製品としており、軽量で精度の高いアーチェリーの矢はオリンピックの決勝で毎回必ず使用されるほど世界的に評価されています。自転車に関してはEASTONの高いカーボン技術を活用するスポーツ製品の一環としてホイール、クランク、ハンドルなど(やはり筒状のもの...)を製造しています。
アーチェリーの分野で培われた高い信頼性が有名でMTBやシクロクロス用のカーボンホイールがよく売れていますが、ロードバイクのプロチーム(現在は各国のコンチネンタルレベル、過去にはワールドツアーのチームBMCにも供給)のほかカナダのオリンピック選手(トライアスロン)であるBrent McMahonなどにも使用されているようです。
(c)すたりん
EASTON EC90ホイールのラインナップ
EASTONが誇るカーボン技術がEC90。ほぼすべてのカーボン製品にこのグレードのカーボンが使用されており、2018年現在ロードバイク向けにはEC90 SL, EC90 SL DISC, EC90 Aero55の3種が販売されています。このうちEC90 SL DISCはEC90 SLをディスクブレーキ向けにスポーク数を増やして強化したもので、リムの種類としては実質2種類となっています。
- SLはオールラウンダー向けの軽量38mmリム。
- AERO55は空力性能にステータスを全振りした55mmのディープリム。
どちらも後述する極厚リムサイズにより空力性能が最大限まで引き上げられており開発時点ではどちらのリムハイトでもZIPPを含む他社のディープリムホイールより性能が良いという実験結果を売りにしています。(EASTON自社調べなので真偽のほどは不明)
EC90 SLの特徴
SLとAero55はリムハイト以外多くの特徴を共有していますが、ここではSLに絞って特徴を並べてみます。
・極厚のファントムリム
Eastonホイールのアイデンティティといえる極厚のフォルムはEaston社による説「自転車に吹く風のほとんどはクロスウインドである」をもとに総合的に様々な角度での空力を最大化するために生み出されました。外径28mmは多くのリムブレーキで最大限まで開いた大きさと考えるといかに分厚いリムかが分かります。
詳細はこちら。Aero55についての解説ですが理念は共通です。
図をメインに解説してくれているので英語が苦手でも大丈夫。
Easton社によるとSLモデルを他社と風洞実験で比較したところzipp 303やENVE SES 3.4などのオールラウンドホイールと比較して「最軽量」「最大エアロ効果」との結果が出たとのこと。(参考:Easton EC90ホイールカタログ(リンク先はpdfファイル))
なおこれは2015時点の結果であり、2018年現在zippは気流の剥離を抑える凹凸処理を施した究極にエアロなホイールを登場させているので結果はまた異なるかもしれません。
(気流の剥離とはエアロ効果を生み出す前提である「気流がホイールの表面に沿って動く」という前提が崩れる現象です。飛行機が気流に対して翼の角度をつけすぎて失速する現象と同じで、これが起こると突然空力に関する効果がなくなってしまいます。)
何にせよエアロ効果はそのあたりのトップクラスに位置していると見てよさそうです。
・CX-Rayスポーク
小さいようで意外と大事なスポーク。信頼と安心のCX-Rayスポークなので文句なしです。
・Echoハブ
近年Easton社が独自に開発したのがEchoハブ。一番外側のカバーを引き抜くとすぐにベアリングにアクセスできるメンテナンス性と幅広の構造による横剛性と耐久性の向上が売りになっています。上述のEASTON社カタログによるとエコーハブのベアリング幅95mmは他に幅広の特徴をもつシマノホイールを抜いて業界最大とのこと。
ラチェット音はうるさすぎない範囲を維持しつつも存在感があり、高速空転時はジージーとセミのような音で鳴きます。
・水転写デカール
メーカーロゴがシールかペイントかで質感は断然変わります。EASTONと輪郭がかたどられたロゴは水転写デカールによるものなのでGOOD。
・職人による手組み
EASTONが以前から大切にしているのが職人によってひとつひとつ手組みされているということ。他にもDT Swissなど有名な会社はそれぞれの誇る職人が手組みでホイールを完成させていますがここが品質を大きく分ける部分になります。
以下の動画にもありますがすべての製品が手組みかつ専門スタッフの個体検査を経て届けられるので品質管理という点で信頼がおけます。
以前は手組みをアピールするあまりホイール側面に大きく手の形の手組みマークがついていたようですがさすがにデザイン的に微妙だったのか現在はスポークの出ている内側に小さく当時と同じマークが描かれています。どうしても手組みのアピールを残したかったのでしょう。(笑)
こちらの動画はホイールがカーボンのシートから完成されるまでを追ったEaston社のPR動画。写っているのはひとつ古いモデルですが製法自体が大きく変わることはないので現在もこうして作られていると思って視聴すると楽しいです。
・軽量
EC90 SL チューブラーモデルはかなりの軽量級で、カタログ値1167g。
クリンチャーは1473gでチューブレス対応となっています。
まとめ
EASTONホイールの中でもオールラウンダーとして各部分に気を使って作られたEC90 SLホイールはEASTON社の誇るファントムリムによるエアロ効果、オールラウンダーとして完璧な1160g台の重量(チューブラー)、そしてEchoハブによるベアリングの高いメンテナンス性と剛性を備えたハイエンドホイールと見て間違いなさそうです。
チューブラーとクリンチャーの論争にはここではあえて触れませんが、軽量化したいと言いつつクリンチャーを選ぶのはナンセンスだと私は考えるので総合的なバランスとしてはEC90 SLチューブラーモデルが一番オールラウンドに違いを体験できるホイールであると私なりの結論を出しました。
ということで散々引っ張りましたがWiggleのセール中に悩みに悩んだあげく購入。
さらばPrimeホイール。あれだけ悩んだ上にリサーチを重ねて買わなかったものはきっとPrimeホイールが初めてです。値上げは良くないぞWiggleさん。(笑)
次回はインプレと愛車黄タマに装着した写真などを載せます。
ではまた。
ホーキング博士と感覚的物理 : 時空間歪みの観測
こんにちは。
ついに、あの人が逝ってしまいました。
ホーキング博士。物理学会のみならず一般人にもよく知られる珍しい存在の偉大な学者さんでした。
宇宙物理を学ぶ学生の私としてはひとつの大きな時代の終わりを感じます。
時代の終わりというか、自分が到達する前に時代が終わってしまった喪失感というか、それに似た何かです。
スティーヴン・ホーキング博士(よく日本人にはホーキンズと間違って呼ばれることがありますがHawkingという名前からしてホーキングのほうが妥当でしょう)はブラックホールが消滅する現象、いわゆる「ブラックホールの蒸発」について理論を提唱した物理学者です。(特異点定理よりもこちらのほうが感覚的に理解できて面白いので一般によく知られているそうです)
20世紀初頭にアインシュタインによって一般相対論が組み立てられてから巨大な重力場を形成するブラックホールの存在については議論が加速しましたが、微小な重力を持つブラックホール(原子核1個とかそれ以下の質量、きわめて「軽い」ブラックホール)のふるまいについては理論が完成しませんでした。
そこに量子力学的観点でエネルギーの不確定性を応用したのがホーキング博士です。
エネルギーの不確定性とは、マクロの世界で採算が取れるならごく短い間だけ何もないところからエネルギーを取り出しても良い(そのかわりすぐに返却しなければいけない)というような都合の良い物理の原理です。量子力学とよばれるきわめて小さい(=ミクロの)現象を扱う分野の基本原則となっており、この曖昧な法則のおかげで多くの事象が成り立っています。
ホーキング博士の理論では、こうしてエネルギーが絶えず生成されては返却されている状況、「量子ゆらぎ」のもとではエネルギーによって物質が生成される
(アインシュタインの相対論でかの有名なe=mc、エネルギーは物質の質量と比例関係にあるということが発覚して以降ディラックという学者が理論的にエネルギーから物質を生成できることを予言し、その後実証された)
という性質により物質と反物質が生成され、その一方がブラックホールに落ちる過程でもう一方がブラックホールから吹き飛ばされて外界へと放出されることで最終的にマクロなスケールでのブラックホールのエネルギーが減少する(マクロな世界ではエネルギーは保存されるため、どこかで何かが減らなければいけない)であろう、と予測しています。
ガリレイ、ニュートン、マクスウェル、ローレンツ、アインシュタイン、シュレーディンガーと紡がれてきた物理の糸に新しい繋がりを見出して次の世代へと託したホーキング博士。最近流行りのひも理論(私はまだ勉強していません)では多次元宇宙という話がホットなのでホーキング博士はきっとどこか別の次元に飛んで行ってしまったのだろうと冗談めかして偲ぶ声も見られます。数年前にアインシュタインの予言した重力波が観測されて、そして昨日ホーキング博士がアインシュタインの誕生日に去ってしまって、ひとつの大きな時代が終わろうとしています。
個人的なことですが、最近時間が経つのがあまりにも早くて(速くて?)驚きます。少し前まで家の小さい本棚からドラえもんの宇宙大百科を取って読みながら星空に思いを馳せていたような、そうでなくとも少し前まで日本にいたような、まるで一気に時間を滑り降りてきてしまったような不思議な気持ちに駆られます。
物理に関しては基礎を抑えてからは新しい分野も少しずつ自力で理解できるようになってきて、今後の勉強に自信と期待が膨らんでいます。
アナログなフイルム写真を撮ったり、ピアノを弾いたり、自転車に乗ったり、そういったひとつひとつのことに含まれる小さい気付きのようなものが物理の理解と繋がっていって、逆にそうして考えれば考えるほど自分が生きているこの時間と空間がとても変なものに思えて仕方なくなったりします。
まるで思春期のような、それまで当たり前に思えていた日常や時間の進み方がとても奇妙なものに思えてならない、変な感覚。
勉強が劇的に忙しくなってきて少し精神的に参っているのかもしれませんが、でも今回ひとつの時代の終焉を連続的に目の当たりにすると、こうして感覚的に自分が学んでいることを考えられるのは悪いことではないのかなとも思ったりします。
なんだか時間軸が歪んで進んでいるような感覚を持っているところに飛び込んできたニュースだったので、思いつくままに感じたことを書いてみました。
SpecializedのTarmac新型が公開されたのがめちゃめちゃカッコイイので早いうちに実物を見て記事を書きたいなーと思っています。その前にツアーオブカリフォルニアのルートレポとホイール考察の記事も終わらせなければ。時間は待ってくれません。
それではまた。ホーキング博士のご冥福をお祈りいたします。
(といってみたものの博士のスケールだとPlutoくらいじゃ満足しなさそう。)
カーボンホイールを考える: Easton EC90 SL (1/3)
こんにちは。
早いもので、私が愛車、黄タマ号(Specialized Tarmac SL4, 2017年モデル)と出会ってから8ヶ月。
軽快かつ安心感のあるフレームや一瞬で変速の決まるアルテグラには愛着が増すばかりですが、ひとつだけどうしてもアップグレードしたいと思い続けてきた部分がありました。
ホイールです。
以前は予算を500-700ドル(5-7万円)と見積もってその範囲内で最適と思われるWiggleのオリジナルブランドPrimeホイールをリサーチしていました(今でも一番人気のある記事です)が、時が経つにつれて私がホイールに求めるものも変わって来ました。
Primeホイールまとめ記事:
これまでは
- 軽量化は正義
- 自分はクライマーだからエアロ化は二の次
だったのが、
- 山は実力でそこそこ登れる
- 平坦で仲間に迷惑をかけたくない
- でも山でのアドバンテージを最大にいかすために軽量化志向は捨てたくない
という方向に向き始めたのです。
それはというのも、自分で布教しまくって増やした自転車仲間と一緒に走るようになって「脚質」の違いを初めて体感したから。
もともと「坂道でしか本気出さない」ローディーのつもりでしたが、初心者であるはずの友人たちと一緒に平坦を走っていると「あれ、これは坂道でしか本気出さないんじゃなくて坂道でしか本気出せないんじゃないのか!?」と思い始めたというわけです。
たとえば、Stravaを見てわかる一例として:
斜度10%くらいの坂道で友人が休憩している間にアタックしてみたらデイリーランキング1位/50人。
下り斜度2%くらいの高速区間で友人とアタックしてみたら友人を振り切れずしかもデイリーランキングで50位/100人。
ツアーオブカリフォルニアのルートだとプロの記録が残っているのでどちらもKOMには到底及びませんが坂道と平坦では周囲のサイクリストと比較しても実力に偏りがあることが分かります。
ちなみに私の身長体重はそれぞれ 190cm70kg 166cm50kg, 登坂以外を受け付けないフライ級です。日本人としても小柄な部類に入ると思います。
そんなことを考え続けてはや半年。
遂にこの時がやってきました。
Wiggleの大セールです。
物欲の塊のような私にとってこれは外せない機会。
あわよくば良いホイールが安くなっていないか...と何日もかけてスキャンしていたところ、Eastonホイールが安くなっていることに気が付きました。
Eastonとは:
自転車のパーツを作るアメリカの会社。独自のEC90というグレードのカーボンを開発してカーボンの軽量・エアロパーツを専門に売り出しています。
主にMTBやシクロクロスの世界で活躍していますが、ロードでもEC90の55mmエアロホイールは特に人気が高く、以前はBMCにホイールを供給していました。
https://www.eastoncycling.com/
BMCといえばBMCがスポンサーを撤退するかもしれないとのことで話題になっています。新シーズンが始まったばかりなのに失業の心配をしなければいけないチームの選手たちは少し可哀想です。
昨年は現Education Firstの選手たちが必死にスポンサー探しのアピールでブエルタの最中にペロトンの先頭に出ていたりしましたね。なんだかF1の世界を彷彿とさせるものがあります。
閑話休題。
Wiggleを見ていると、そのEastonが誇る極厚ファントムリムを持つ38mmチューブラーが50%OFFになっていたのです。クライマーとしての意地を張って軽量化しつつできるだけエアロにするという無茶な話を満たすにはチューブラーの不便を受け入れるのもありかなと思いかけていた矢先。
photo:
Eastonは黒地に白い輪郭線で引かれたロゴがカッコいいので以前から気になっていたのですが、合計1.16kgという軽量ホイールにzippの303よりも効果の高い(Easton自社調べ)エアロの特性を持てるなら文句はありません。というか本当なら凄すぎないかそれ。
ということでめちゃめちゃ気になったEASTONホイール、ボラワンばかり履かせる日本人にはEASTONなんて眼中にないようで、なかなか使い手を見かけないので自分でリサーチしてみました。
スペックの紹介は次の記事にて。
ではまた!