カリフォルニア通信

胸が踊るような何かを、カリフォルニアの空の下から。ロードバイクと写真と音楽と物理について。

格安カーボンディープホイールを考える: Prime RPシリーズ(2/2)

(3/25/2018追記:現在wiggleCRCにてprimeホイールが値上がりしており特段な買い得感が減少しています。Primeホイールとは少し値が変わりますがwiggleでたびたびセールになることの多いEastonホイールについてリサーチした記事を公開致しましたので興味のある方はぜひ。

sterling-ym.hatenablog.com追記ここまで)

 

格安カーボンディープホイールを考える: Prime RPシリーズ(2/2)

sterling-ym.hatenablog.com(1/2)からの続き。

 

颯爽と峠を登りながら追い抜きざまにドヤ顔をするために軽くてカッコよくてしかも普段使いできる安いカーボンディープリムホイールが欲しい。

 

似たような思いを抱く人は多けれどなかなか叶うことのなかったその我儘に対処すべく格安カーボンディープリムを必死に検索した結果行きついたのがCRCのオリジナルブランド、Primeホイール。今回はそのスペックを詳細に検討して、果たしてこれは買いなのか!?ということを検証していきます。

 

f:id:sterling-ym:20170818163732j:plain

Primeホイールの概要

オンラインストアCRCの独自ブランド

・RRシリーズとRPシリーズの2種類がある

・RR,RPシリーズ共にクリンチャーとチューブラーの選択肢がある

・RR,RPシリーズ共にリムブレーキとディスクブレーキの選択肢がある

・RRシリーズはコスパ重視、RPシリーズは性能重視

・クリンチャーのリムは28,38,50mmの3種類

・チューブラーのリムは35,50mmの2種類

・完組みで買えるが全パーツを売っているので手組みもできる

 

こうしてまとめるとかなりの品揃えです。実際に売れているのは上記のうちごく一部ですが、クリンチャーホイールだけでもリムハイト(28,38,50)3種類xスペック(コスパor軽量)2種類xブレーキ(リムorディスク)2種類の12種類が標準で揃えられています。チューブラーモデルは更なる軽量化が施されていますがクリンチャーモデルはいわゆる2-wayでクリンチャーとチューブラー両方に対応しているのでチューブラー信者でなければ普段使いにはクリンチャーモデルのほうが使い勝手が良いでしょう。

(2018/1/2追記: 間違いでした。クリンチャーモデルはチューブレスreadyでバルブ部分とリムがチューブレスに耐えられるようにできています。そのためタイヤ取り付けが若干硬くて大変との話も。失礼いたしました。)

 コスパ重視のRRと性能重視のRPの違いですが、エントリーレベルとミドルレベルの差ともいえる数百グラムの大きな重量差がセールの影響で100-200ドル(1-2万円)の価格差に抑えられていますので、CRCから購入するのであれば性能重視のRPモデルを選んだほうがお得だと思われます。

 

38mmカーボンホイール・PR-38のスペック(CRC公式カタログ値)

ここでは家の近所に峠が多い私がクライムメインの練習スタイルであるという理由から現在個人的に一番気になっている38mmリムハイトのクリンチャーモデルRP-38を例にしてスペックを検証していきます。

www.chainreactioncycles.com

f:id:sterling-ym:20170822043241p:plain

【重量】1435g(旧カタログ値1360g); 前627g 後808g

クリンチャーモデルとしては十分な1400g台です。旧カタログ値では上記の通り1360gとなっていましたがリムテープ等を含めると実際はもう少し重く、海外のレビュー等では1400g-1420g程度の実測値が報告されていて「悪くはないけど少し詐欺だよね(笑)」といった雰囲気の記事が散見されました。私の推測の域を出ませんが、現在のカタログ値はクレームを受けてカタログ値をCRCがこっそりと書き直したものと思われます。ここのデータが実際どうなのかというところを調べるのに時間がかかりました。ちなみにwiggleや他の通販サイトではいまだに初期のまま1360gと記載されているので注意です。とはいえ製品が重くなったわけではないので、実質的に個体差の最小値が1360g,最大値が1435gといったところでしょう。プラスマイナス30-40g程度の個体差はどのメーカーのホイールにも見受けられます。

CRCは価格に絶大な自信を持っているようで、同じ35-40mmクラスのミドルハイトリム同士でコストを比較する図をサイト内に表示しています。重量はホイールのスペックのうちの一つにすぎないとはいえ、1360-1435g程度のホイールを799ドルで販売している圧倒的なコストパフォーマンスはサイクリストの購買欲をくすぐる一因となりそうです。

f:id:sterling-ym:20170822042318j:plain

 

 【セット内容】

ブレーキパッド・クイックレバー・チューブレスバルブ・チューブレステープ・スペアスポークx3・スペアニップルx3

セット内容は至って普通です。ホイールカバー(収納袋)がないのを気にする方もいるかもしれませんが元がこの価格ですから付けろというほうが無茶です。ブレーキパッドの性能は「そこそこ」といったレビューが多いので少し使ったらシマノのカーボン用に変えたほうが満足度が高いかもしれません。ちなみに最近のカーボンホイールは熱に比較的強いためアルミ用ブレーキも絶対ダメというわけではないという話も聞きますが、そういった冒険をする場合でもアルミリムに一度でも使用したブレーキは絶対に使ってはいけません。金属の粉や破片でカーボンリムがダメージを受けます。公式には「公式ブレーキパッド以外は使用をお勧めしない」旨の記述がありますがこれは各社書いていることであり実際の違いは各自のフィーリングで決めて良さそうです。

 

【リム】

f:id:sterling-ym:20170822050804j:plain

(c)Prime RP-50 carbon clincher wheelset review | CyclingTips (写真はRP-50)

リムはフルカーボンです。カーボンはT700という業界スタンダードのグレードが使われており文句はありません。T700やT1000といったカーボンのグレードについては素人が説明できるほど簡単なものではなく学術的なものになりますのでどうしても気になる方は論文検索をしてみてください。私には守備範囲外でした。大事なのはカーボンのグレードを落としてコスト削減をしているわけではないということです。

セミディープとなっているリム部分はエアロ構造を意識して滑らかなU字型となっており海外のインプレ記事を見る限りでも非常に美しい仕上げとなっています。また以下の説明によるとブレーキ部分は特殊加工(写真を見る限りエンボス加工のようなザラザラのテクスチャ)がしてあり、

High TG resin 3K carbon fibre brake track with textured surface for enhanced all weather performance

カーボンリム最大の弱点である雨天時のブレーキ等改善されているようです。また

SBT Technology: Staggered brake track positions the braking surface away from the tyre bead to increase heat dissipation

と表記してある通り熱対策も怠ってはいないようです。

対応タイヤは25c-33cとなっており23cを使えない点には注意が必要ですが、プロが揃って25cを使っている現在問題は特にありません。

 

【スポーク】

前20、後24本のCX-Rayスポークが使われています。海外インプレ記事によるとこのスポークは

Sapim’s semi-bladed CX-Ray, one of the lightest spokes on the market with an excellent reputation for strength and durability 

 と評されており、軽量・強度・剛性をもった半きしめん型スポークとなっています。

 

【ハブ】

f:id:sterling-ym:20170822051829p:plain

軽量アルミニウムの鋳造・CNC加工です。7075アルミの特性はT700カーボンに続き省略しますがこれも問題はなさそうです。シマノ・スラム対応のハブが標準装備で、カンパ対応は別売りとなっています。ベアリングは

Bearings: Premium Japanese sealed cartridge bearings x 4 

 と「日本製」無印となっていますがこれはオリジナルブランドらしさといえそうです。日本人としてはここは信頼すべきでしょう(*´з`)

カートリッジ式なので分解しての調整は不要ですが逆にそれを気にする方もいます。「カップ&コーン型」と「カートリッジ型」の論争は結論がついていないのでこれを受け入れるか嫌うかということに関しては個人の好みの問題になりそうです。

 

【強度・剛性】

バイクのフレーム・ホイールの話をするときに毎回問題となるのが強度と剛性の話です。そもそも素人である私たちがどれほど剛性を気にするべきなのかという根本的な議論は後述しますが、まず注意したいのはカーボンディープリムの特性として適度なたわみがあることです。これはアルミと比べたときの決定的な違いでフレームに関しても同じことが言えますが、カーボンは柔らかいです。したがってアルミホイールから履き替えたときに「これは剛性が云々」と文句を垂れるのは筋違いで、比べるべき相手は他社のカーボンホイールです。

インプレ記事やCRCサイト内レビューなどを漁っていると「カンパニョーロよりも柔らかい」という意見が多めです。身体が重めの人が坂道で激しいダンシングをするとたわみを明確に感じられるかもしれません。しかしこれはあくまで海外の人たちの印象で、平均的に身長・体重・出力が比較的スモールサイズな日本人にとって剛性というのはそこまで大切ではありません。

個人的な体験談ですが、日本人はアメリカのプロでも気にしないような細かいスペックをいちいち気にしすぎるとプロショップのメカニックに笑われたことがあります。大切なのは自分が何が好きか・何と相性が良いかであって、フレームやホイールを選ぶときに剛性剛性と一つ覚えのように繰り返すことは海外の方から見ると少し滑稽なのかもしれません。事実として剛性を追い求めた時代は終わり、数年前から各社はレーシングモデルにおいても「適度な柔らかさ」を追求し始めています。いつか記事にしますがペダリングの「円運動」理論の一つ覚えに関しても同じことが言えます。少し脱線してしまいますが、海外のスタイルは好きなものを買ったらあとは黙ってとにかく乗れ、です。重量など絶対的な部分以外のフィーリング系スペックに関しては「何が良い」というものは存在しません。インプレはあくまで参考程度にしておいて、最終的な判断をするためにはテストライドをするか人柱になる以外の方法はないということです。

 

そんな少し柔らかめなPrimeホイールですが、強度がないというわけではなく、

Prime's carbon clincher wheelset is versatile, so you can use it for cruising over loose terrain - such as gravel - as well as on your cyclocross bike.

グラベルバイクやシクロクロスバイクにも使える信頼性があると公式サイトに書いてあります。強度と剛性に関しては好みの部分が大きいので確かなことは言えませんが、例として私のフレームを取ると Specialized Tarmac SL4フレームは小さいサイズに関しては非常に硬いことで有名で(剛性最盛期のフレーム)、私の使う49サイズはカーボンフレームとしては最も硬いものに分類されます。そのようなフレームを使っている場合は体重も52kg(かなり小柄)と軽めであることを加味すると少し柔軟性のあるホイールのほうが乗り心地・加速感ともに快適であることが予測されます。

このように自分の身長・体重・フレーム・ライドスタイルをもとに何を求めるかということを決めた上でインプレ記事を読み漁ってみると適切な角度から強度と剛性の点について考えられるでしょう。

 

【まとめ】

最初のカーボンフレームが登場してから20年近くが経ち、現在急速に自転車のカーボン部品の低価格化が進んでいます。各企業のオリジナルブランドに関してはアジアよりも欧米諸国のユーザーのほうが許容度が高いように感じますが、通販の日本進出に伴って日本でも少しずつ「カンパとフルクラム以外のホイールも見てみよう」といった風潮が出てきているようです。8万円で1360-1435gのエアロカーボンホイールを買えるという点はホビーライダーにも嬉しい点で、結論としては

颯爽と峠を登りながら追い抜きざまにドヤ顔をするために軽くてカッコよくてしかも普段使いできる安いカーボンディープリムホイールが欲しい

という点に関して、このホイールは買いであると言えそうです。いわゆる決戦用ホイールのレベルで2倍以上の価格で販売されているトップエンドのホイールと比較できるわけではなさそうですが、大切なのは何が欲しいか、何に使いたいかということ。こうした新興ブランドで賢く物欲を満たしていくのもサイクリングのひとつの楽しみです。

RPシリーズに関してはこちらのサイトを参考にしました。非常に丁寧な解説と美しい写真が特徴です。

cyclingtips.com

新しく情報が入ったり修正点を発見した場合は追記・訂正しますのでコメントにてお知らせください。

ではまた。

(c)sterling studio 2018, All rights reserved.