カリフォルニア通信

胸が踊るような何かを、カリフォルニアの空の下から。ロードバイクと写真と音楽と物理について。

原点からの距離: 小澤征爾の入院で思うこと

こんにちは。

ずっとロードバイクの話題を続けていましたが今日は私にとって重要なニュースを見つけたので少しだけ音楽の話を。

 

日本の誇るマエストロ、小澤征爾氏が入院されたとのこと。

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私にとって小澤征爾さんには一ファンとしてだけでなく特別な思い出があります。

 

本格的に競技としてのピアノの世界に入る前、小学校に入学するかどうかという幼い頃、小澤征爾さんがウィーンフィルで振ったラデツキー行進曲のCDを買ってもらって毎日のように聴いていた時期がありました。

おそらくニューイヤーコンサートのCDです。この曲の何が幼い私に共振したのか定かではありませんが、ラデツキー行進曲だけにひたすらやみつきでした。

ピアノの先生に相談したところまだ手も小さく体格も同世代の子たちより一回り小さかった私のために専用の楽譜を作ってもらうことになり、その年の発表会では小澤征爾になったつもりで楽しく弾くことができました。

おそらく私のピアノに関する記憶の中で一番最初に舞台で演奏することを楽しいと思った瞬間だったと思います。

 

その後ステージで演奏する機会を求めるうちにコンクールの存在を知り、そのままひたすらピアノ一筋の少年時代を送ったのはまた別の話。

 

小澤征爾さんに関してはその時幼い私の耳に響いた感覚がそのまま印象として今でも残っています。

 

そんなこんなで尊敬してやまない小澤征爾さんですが、実は2年前に実際にこの眼と耳で演奏に立ち会える機会がありました。サイトウキネン2016, ベト7の回です。

 

私は2016年の夏、自分自身を見つめ直すために一度アメリカから脱出して1,2か月間ヨーロッパを放浪していました。既に日本を出て一年半が経過していた当時それまでの日本の生活を捨ててアメリカでの基盤を作ることが辛く精神的に限界が来ていた私にとって非常に良い時間でした。

その帰りに寄ったのが日本の長野県松本市、松本ミュージックフェスティバルの開催される小さな街です。

 

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音大にいる友人が高校時代はチェロ奏者としてオーケストラにのめり込んでいた私と卒業後も絡み続けてくれていて、その音楽祭の目玉であるサイトウキネン・オーケストラによる小澤征爾の公演のチケットを取れたからと誘ってくれたのです。

 

私の音楽の原点ともいえる小澤征爾がかの有名なベートーベン7番を振るとどうなるのだろうと楽しみに、バックパック1つでヨーロッパを放浪した帰りでしたが私なりにできる一番綺麗な身なりで気合を入れて行きました。

 

しかし、演奏会で私が体験したものは私の想像の遥か先にありました。

良い意味で、です。

衝撃を受けた、とか、胸を打たれた、とか、そういう言い回しさえ勿体なくて使えないほど、美しい演奏でした。美しいのに、それでいて今まで聴いたどんな演奏よりも生き生きとしていて、第一楽章の一音目を聴いた瞬間から自分はとんでもないものに立ち会っているという畏れと感動でいっぱいでした。

ピアノにしろオーケストラにしろありとあらゆる曲を演奏したり聴いたりし続けてきたつもりでしたが、人生の中であれほど衝撃を受けたことはありませんでした。

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音大の友人と一緒に涙を流しながら拍手をしている間、小澤征爾は歴史に残る最高のマエストロの一人なのだなと考え続けていました。

 

あの演奏会に行くことができた私は幸せです。

 

私の音楽の原点であり、そして私が音楽から離れてアメリカで新しい生活を作るときにふたたび生きる力を与えてくれたマエストロ、小澤征爾

しかし幼かった私がいつの間にか成人してアメリカの大学生となったのと同じ分だけ、年齢は確実に巨匠の身体に老いを刻んでいることも事実です。

ここ数年間はずっと体調との闘いであったようですが、音楽は人間の域を超えても身体はこの先ずっと健康でい続けられるわけではありません。

 

その事実があまりにも寂しく、でもまだ諦めたくなくて、

頑張れマエストロ、と呟く夜です。

 

一日も早いご快復となりますように。

 

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次の日に見学した松本城。日本らしくて良かった。

 

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とある喫茶店にて。松本と聞いてサイトウキネンより先に漫画が思い浮かぶ人には分かる場所。夏の暑さが少し遠のく静かな空間で友人と語り合った時間。幸せでした。

 

日本に一時帰国(?)した時はほかにも良い思い出がたくさんあるので書いていて懐かしくなりました。また久しぶりに帰りたいなあ。

それではまた。

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