カリフォルニア通信

胸が踊るような何かを、カリフォルニアの空の下から。ロードバイクと写真と音楽と物理について。

ホーキング博士と感覚的物理 : 時空間歪みの観測

こんにちは。

ついに、あの人が逝ってしまいました。

ホーキング博士物理学会のみならず一般人にもよく知られる珍しい存在の偉大な学者さんでした。

 

www.nytimes.com

宇宙物理を学ぶ学生の私としてはひとつの大きな時代の終わりを感じます。

時代の終わりというか、自分が到達する前に時代が終わってしまった喪失感というか、それに似た何かです。

 

スティーヴン・ホーキング博士(よく日本人にはホーキンズと間違って呼ばれることがありますがHawkingという名前からしてホーキングのほうが妥当でしょう)はブラックホールが消滅する現象、いわゆる「ブラックホールの蒸発」について理論を提唱した物理学者です。(特異点定理よりもこちらのほうが感覚的に理解できて面白いので一般によく知られているそうです)

20世紀初頭にアインシュタインによって一般相対論が組み立てられてから巨大な重力場を形成するブラックホールの存在については議論が加速しましたが、微小な重力を持つブラックホール(原子核1個とかそれ以下の質量、きわめて「軽い」ブラックホール)のふるまいについては理論が完成しませんでした。

そこに量子力学的観点でエネルギーの不確定性を応用したのがホーキング博士です。

エネルギーの不確定性とは、マクロの世界で採算が取れるならごく短い間だけ何もないところからエネルギーを取り出しても良い(そのかわりすぐに返却しなければいけない)というような都合の良い物理の原理です。量子力学とよばれるきわめて小さい(=ミクロの)現象を扱う分野の基本原則となっており、この曖昧な法則のおかげで多くの事象が成り立っています。

 

ホーキング博士の理論では、こうしてエネルギーが絶えず生成されては返却されている状況、「量子ゆらぎ」のもとではエネルギーによって物質が生成される

(アインシュタインの相対論でかの有名なe=mc、エネルギーは物質の質量と比例関係にあるということが発覚して以降ディラックという学者が理論的にエネルギーから物質を生成できることを予言し、その後実証された)

という性質により物質と反物質が生成され、その一方がブラックホールに落ちる過程でもう一方がブラックホールから吹き飛ばされて外界へと放出されることで最終的にマクロなスケールでのブラックホールのエネルギーが減少する(マクロな世界ではエネルギーは保存されるため、どこかで何かが減らなければいけない)であろう、と予測しています。

 

ガリレイニュートン、マクスウェル、ローレンツアインシュタインシュレーディンガーと紡がれてきた物理の糸に新しい繋がりを見出して次の世代へと託したホーキング博士。最近流行りのひも理論(私はまだ勉強していません)では多次元宇宙という話がホットなのでホーキング博士はきっとどこか別の次元に飛んで行ってしまったのだろうと冗談めかして偲ぶ声も見られます。数年前にアインシュタインの予言した重力波が観測されて、そして昨日ホーキング博士アインシュタインの誕生日に去ってしまって、ひとつの大きな時代が終わろうとしています。

 

個人的なことですが、最近時間が経つのがあまりにも早くて(速くて?)驚きます。少し前まで家の小さい本棚からドラえもんの宇宙大百科を取って読みながら星空に思いを馳せていたような、そうでなくとも少し前まで日本にいたような、まるで一気に時間を滑り降りてきてしまったような不思議な気持ちに駆られます。

物理に関しては基礎を抑えてからは新しい分野も少しずつ自力で理解できるようになってきて、今後の勉強に自信と期待が膨らんでいます。

アナログなフイルム写真を撮ったり、ピアノを弾いたり、自転車に乗ったり、そういったひとつひとつのことに含まれる小さい気付きのようなものが物理の理解と繋がっていって、逆にそうして考えれば考えるほど自分が生きているこの時間と空間がとても変なものに思えて仕方なくなったりします。

まるで思春期のような、それまで当たり前に思えていた日常や時間の進み方がとても奇妙なものに思えてならない、変な感覚。

 

勉強が劇的に忙しくなってきて少し精神的に参っているのかもしれませんが、でも今回ひとつの時代の終焉を連続的に目の当たりにすると、こうして感覚的に自分が学んでいることを考えられるのは悪いことではないのかなとも思ったりします。

 

なんだか時間軸が歪んで進んでいるような感覚を持っているところに飛び込んできたニュースだったので、思いつくままに感じたことを書いてみました。

 

SpecializedのTarmac新型が公開されたのがめちゃめちゃカッコイイので早いうちに実物を見て記事を書きたいなーと思っています。その前にツアーオブカリフォルニアのルートレポとホイール考察の記事も終わらせなければ。時間は待ってくれません。

 

それではまた。ホーキング博士のご冥福をお祈りいたします。

(といってみたものの博士のスケールだとPlutoくらいじゃ満足しなさそう。)

(c)sterling studio 2018, All rights reserved.